トヨタ製品開発方式
トヨタ生産方式は、有名なためかいろんな本が出回っている。一方、トヨタ製品開発方式は、まだまだ知れ渡っているとはいえない。とはいえ、その生産性がGMの4倍近いと聞いたら知らずにはいられないのでちょっと探してみた。
一つ目は、1997年なのでトヨタ生産方式を含めかなりクラッシックなもの、二つ目は製品開発方式に焦点を当てた本である。三冊目は製品開発力に特化した本であり、著者は一冊目の本と同じである。四冊目と五冊目は、元主査(今言うところのチーフエンジニア)の方が書いた本。六冊目はトヨタウォッチャー(元マツダ、元大学教授)が書かれた本。7冊目は、トヨタの情報システム担当のかたが書かれた本。
- 1997年の研究なので、歴史的経緯が良く書かれており、トヨタ生産方式による生産性改善そして、その頭打ちによる製品開発方式の改善への取り組みが行われたことがわかる。
- 最近書かれただけあって、製品開発方式に特化して書かれている。セットベースコンカレントエンジニアリング
- もともとは、1993年にかかれたものだが、その後の状況を含めて2009年にアップデートしたもの。これでびっくりしたのが、奥の院というべき製品開発の工数等の情報が学術レベルではある程度入手できたことである。また、その結論により、インテグラル型の製品開発において、組織の生産性は有効に働いていることが良くわかった。結局、如何に並列に作業が出来るかが鍵のようである。なお、パソコン等に代表されるモジュール型の話も、読んでみたいと思った。なお、大まかな枠組みは1993年と変わっていない。なお、参考になった点いくつか
- 今回の分析では、開発は、4つのフェーズに分かれており、コンセプト創出、製品プランニング、製品エンジニアリング、工程エンジニアリングとなっている。ここで、工程エンジニアリングと製品エンジニアリングは、日本の場合ほぼ同時に終了してしまうという驚異の並列処理が出来るらしい。
- また、設計修正回数も欧米と日本であまり変わらず、開発工数を増やす要因となっていないことから、変更に対しても、少ない工数で対応する強さも、日本の自動車産業にはあるということのようであった。
- 日本では、チーフエンジニアは商品のコンセプトまで責任を持つ重量級だが、欧州の高級車等では、歴史が、第二次大戦前からと古く、ブランドが確立しているためか、開発部署の調整を主とするのみの軽量級が多い印象を受けた。
- IT産業では、発注が日本国内と海外では、仕様書に詳細を書かない文化の違いがあるといわれる。自動車産業でも同じで、欧米に進出したとき、そのままの仕様書では部品会社に発注できなかった模様である。とすると、仕様書の詳細さは、プロジェクトの優位性にはつながらないということなのだろうか?
- 主査を経験した方が、書かれた本。なお、時代は昭和50年になったころの話であり、主査の業務とは何かと、トヨタが、日産のスカイラインやローレルを追い越していった話が書かれている。いくつかメモ
- マークIIを含む小型上級車のシェアは、2代目から4代目へと行くに従い13%から50%越えとなった。
- 主査のサインは、偽造しにくくするためか一筆書きの花押みたいなものでされる。しかも、日に200枚の図面に対してサインされることもある。そして、該当製品に関するすべての図面に、主査のサインが必要となる。
- とはいえ、開発(原価を含む)から販売まで広く受け持つため、会議も多く、主査付という、担当者が設定される。しかし、人数は、一桁以内(5人程度)。
- この主査というかチーフエンジニア制度の発祥は、フォードに対するGMの各市場ごとに適切な車を提供するため、企画開発を統括的に統括することが必要ということから始まったらしい。
- マークIIを例にしているが、開発工数は、100万人時(3年間200人がフルタイムで働くことを想定)とある。単純計算でも、60億円の人件費が飛んでいくので、相当すごい話である。(MicrosoftとかVMware等の)大規模なソフトウェア開発が千人規模なので、それに近い規模かもしれない。
- 主査を経験した方が、製品開発の心と技について述べた本。大学生とか新入社員向けに書かれた本だろうか、非常にわかりやすく書かれている。3年間200人近い人をまとめて、製品化するのだからここまで落とし込める人で無いとできないのだろう。
- 製品を開発するときの心構え
- 現地現物の本当の意味
- つねに勝つ
- トヨタウォッチャー(元マツダの方)が書かれた本。歴史的にも大変参考になるとともに、豊田英二氏がトヨタの歴史でキーマンであったことも良くわかる。
- マクシー・シルバーストーン曲線により年20万台で、新たな製品を作るのははじめて知った。http://jmdi.saloon.jp/?p=136
- 2000年ごろのセンター設立も、開発コストダウンのためと知った。
- 自動車産業は、一車種辺り1000億円近い開発費がかかるため、コスト削減のための涙ぐましい努力が進められていることを、同氏のサイトで知った。http://www.modular-design-institute.jp/mail_dl/contents/20130409_19_2.pdf
- トヨタは、1990年末ごろグループ企業の連携を強化し、社内の部品開発能力を強化した。一方、GMとフォードは分社化して、部品開発部隊を分けた。どちらが強くなるかといった。経営判断ぽいはなしも書いてある。
- 情報システム屋が書いただけあって、それについてはいろいろ書いてある。
- bBというクルマの初代(2000年ごろ)は、13ヶ月で開発を行った。昭和50年ごろの設計では、36ヶ月と書いてあったことを考えると、3倍速の開発になっている。もっともVitzの車体を流用したので、設計範囲が狭いこともある。
- ということで、勝手にフェルミ推計
- チーフエンジニア数は、1000万台を年間生産している会社なので50車種と考えると50人程度と推定される。そして、エンジニアの数は、その200倍と考えてよいはずなので、トヨタ全体では1万人規模の開発部隊を抱えていることになる。
- 一車種は年20万台ということなので、一台150万円とすると、チーフエンジニアは、年商3000億のビジネスをしていることになる。まあ、2000億かもしれない。
- 一般のエンジニアは、1000台ごとに一人雇える。ということは15億の売り上げで一人雇えるとなる。(多いのか少ないのかは知らない)
参考資料
- http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/academic/ra/dp/Japanese/dpJ84.pdf
- 20131206リーン開発導入事例
- https://ksurep.kyoto-su.ac.jp/dspace/bitstream/10965/744/3/KMR_19_105.pdf
- http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/ssrc/result/memoirs/kiyou23/23-04.pdf
- http://sigarc.ipsj.or.jp/download/ARC201-takada.pdf
- http://www.ritsbagakkai.jp/pdf/455_10.pdf