危機の経営

おなじみサムソン電子の製品開発プロセスのここ20年の進展について、説明している。 
1990年代には、製品開発プロセスそのものが無かった会社が、ここまで追いついてきたという話である。韓国は、財閥解体等のIMF経済危機を乗り切って、危機感をバネにここまで来たという気がする。そして、イノベーションとしては、3つあり、以下の3つがある。ということであった。

  1. 組織と人
  2. プロセス
  3. 製品

とはいえ、この本を読んでいくと、3つのイノベーションがストーリーとしてひとつにまとまっているように見えた。すなわち、サムソンの製品開発プロセスは、ビジネスモデル駆動で出来ているという印象を強く持った。たとえば、組織と人については、新興国各地の専門家を育成し、そのマーケットの達人を作る。プロセスについては、デジタル化(CAD等)を推し進め、開発のスピードを上げ、市場の速度に乗り遅れないようにする。逆に言うと研究開発していなくても、先行者利益が取れるぐらいの開発速度を達成する。製品については、設計思想までさかのぼり、新興国市場にマッチした製品を作るということである。これらは、言うのは容易いが、実現するのは難しいと感じた。
そして、ビジネスモデルの点では、日本企業等と比べてしっかり差別化を図っている(キャッチアップ速度の強化や市場理解のためマーケッタの育成など)ところは感心した。このため、まともに研究開発はせずキャッチアップ速度の強化に注がれるというのは、デジタル化が進んだあだ花のようにも感じた。このため、南アメリカでは、標準化を日本の地デジが取っても、実際に売れる製品は、サムソン製ということが現実に起こる。
しかし、サムソンのモデルは、ハードウェア製品では成り立つが、ソフトウェア製品では成り立たないように感じた。ソフトウェア製品は、ネットワーク外部性があるので、デファクトを取ってしまえばいやおう無く特定のソフトしか売れないためである。たぶん、ソフトウェア製品の場合、すべて見習えないということなのだろうと思う。

危機の経営 ~ サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション

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